みんなが信じるものが現実になる仕組み
「この世界が現実である確率は『数億分の一』で、僕らはシミュレーションの中で生きている」イーロン・マスク
The Tower of Babel / 1563 Bruegel
あるパーソナリティの人が言っていた。
「翻訳してて思うんですよ。日本はAI推進派か衰退派かってまだ議論すらしていなかった。アメリカではどんどんそういう議論がすすんでいる。」
日本は遅い。欧州でいうスペインもまたそんな位置だ。先に行くのはいつもスカンジナビア諸国や北のほうの国。冬に空港で到着口にいると、黒ずくめスタイリッシュの長身の男女が降りてくる。掲示板を見ると決まってルフトハンザ航空が着陸している。そんなクールな印象しかない。彼らはマトリックスの世界から来たのだろうか。後半はどうでも良い話だけど。
マスク氏の言っていることがいつもぶっ飛んでいる、ということに対しては同意してもらえるだろう。
絶対に無理な話をしてくる。
しかし、彼が長々とインタビューに答え、SNSで話題になり、人やメディアがそれを共有しこうやって話題にすることによって、まるでそれが実体化していく感覚に陥る。
そういうことなのだ。
群衆が思えばそれは実現になる。
歴史の中でもそんな感覚に陥った人がいたのだろう。「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」とは誰が言ったのか。
このままいけばスピリチュアルな話になるが、これは偶然でも、魔法でもない。
社会学に「自己成就的予言」という概念がある。1940年代にアメリカの社会学者ロバート・K・マートンが提唱したもので、一言で言えばこうだ。
根拠のない思い込みであっても、人々がそれを信じて行動することで、結果的にその思い込みが現実になる、というのだ。
まさか、そんな奇妙奇天烈なことが本当に起きるのだろうか。
しかし、メカニズムはシンプルで、
認知(思い込み)→ 行動の変容 → 事実の発生
例えば、銀行の取り付け騒ぎという古典的な例がある。
健全な銀行に「もうすぐ潰れる」というデマが流れる。噂を信じた人々が一斉に預金を引き出しに走る。そして銀行は本当に資金が底をつき、破綻する。
誰も最初から嘘をついていなかった。ただ、集団がそう信じたというだけで、現実になった。明日パニックが起きる、という単純な噂でも原理は同じで、多くの人がそれを信じ、人々の行動が変わり、本当にパニックが生まれる。
もっと身近なところにも、こういった現象はある。
私たちが毎日使っているお金。一万円札という紙切れに、物理的な価値はない。でも社会全体が一万円の価値がある、と信じているから、本当にその価値を持つものとして機能している。
もし明日、全員がこの紙には価値がない、と認知を変えたなら、それはただの紙になる。
お金も、集団の合意の上に成り立っている共同幻想だ。
1人が幻想を抱いているうちは、それはただの妄想で終わる。だが100人、あるいはもっと大勢が同じ虚構を共有した時、それは現実となる。流行も、常識も、噂も、そうやって社会的な合意の上に現実化していく。
集団の中でこの現象が加速するとき、働いているのがバンドワゴン効果といわれる、
「みんなが言っているんだから正しいに違いない」
というやつだ。
私たち自身も経験があると思う。
他人の認知を基準に自分の認知を形成してしまう。誤った信念であっても、インフルエンサーや偉い人が言っていると信じてしまう。そしてそれは雪だるま式に広がっていく。
とあるXの投稿で、「メタ認知を上げすぎると人生が楽しくなくなる」という意見を見かけた。有名な発信者が次々と賛同し、引用され、タイムラインはその話題で埋まっていく。気づけば、それは一つの意見ではなく、そういうものだという空気になっていた。(ちなみにあなたはこれについてはどう考えるだろうか。)
ユヴァル・ノア・ハラリは、サピエンス全史でこう述べている。
人間は、神話や国家、貨幣といった虚構を大勢で信じることによって、見知らぬ者同士でも大規模に協力できる唯一の生物になった。虚構は嘘ではない。共有された想像が、そのまま社会を動かす骨格になっている。
人間は、群れで生き延びてきた。なので、集団と違う性質を持つことを、脳は本能的に危険と判断する。孤立したり排除されたりすることは、命に関わるリスクだった。だから集団が信じている方へ、自分の認知や世界の見え方は自動的に修正されていく。これは弱さではなく、生存のためのプログラムだ。
ハラリの本を読んでいると、人の営みは全て虚構でできていると感じる。生存という枠があり、その中で張り巡られた虚構を、全ての人が信じて生きている。お金、結婚、人権、家族、会社、全てだ。
集団の認知が生み出したもの、それがわたしたちの住む現実である。
マスク氏の話に戻ろう。
彼が何かを語るとき、その真偽よりも先に、語られたという事実が広がる。
メディアが取り上げ、SNSで拡散され、人々が反応する。その巨大な渦の中で、突拍子もなかったアイデアが少しずつあり得る話に変わっていく。(彼はもしかしたら集団で認知することによってそれが実現することを知っていて、あえてこういった発言をしているのかもしれない。)
ここで動いているのは、語られること=事実そのものではなく、事実について人々が抱く認識である。その認識が行動を変え、結果として現実を書き換えていく。
アメリカの大統領選挙ある候補者が勝つ、と大勢が信じ始めると、そこに投票が集まり、資金が集まり、ボランティアが集まり、メディアの露出も増えていく。結果として、その候補者は本当に勝ちやすくなる。
株式市場も同じで、この会社は伸びると市場が信じれば株価は上がる。株価が上がれば資金調達がしやすくなり、その企業は本当に成長しやすくなる。
認知が行動を変え、行動が現実を変える。この単純な連鎖が、社会を動かしている。
スマホの普及とSNSにより、情報の流動性が高くなったことで、昔は各国の中で完結していた集団認知は、国境を超え大きな渦となる。
冒頭の話で言えば、米国での話題が日本や各国へ伝染することが普通になった。思想のインターナショナリゼーションは始まっている。そして群集の想像が一つになるこの重力こそが、イーロンの無謀な想像を実現させる。
わたしたちは「アメリカが先で、日本は遅れている」と言う。でもそれは客観的な事実なのだろうか。それともアメリカが最先端、という集団認知そのものが、世界中の人や企業や投資家を動かし、本当にアメリカを最先端にしているのだろうか。
アメリカでの議論は、そのうち日本に到達するだろう。かつては一国の中で終わっていた認知が、いまでは地球規模で連鎖する時代になった。昔は自然発生し鎮火していた火事が、今では国をまたぎ世界を焼き尽くす。
その時どんな突拍子もないものが実現するのだろう。
信念が現実を作る、というのは自己啓発の言葉ではなく、社会が動くメカニズムだ。
だからこそ、自分が何を信じているか、誰の言葉を信じているかを、問い直すことが必要だと感じている。
・・それにしても、地球中の人々の認知を集めたとしても実現不可能に思えることを、あそこまで断言できる彼は素敵な中二病なのかもしれない。
ピーテル・ブリューゲルのバベルの塔は、まるで集団の妄想や熱狂がひとつの現実を作りあげていっているようです。
歴史、お金、AI、社会心理学を行き来しながら、色々な仕組みを考えています。そんなテーマに興味があれば、ぜひご登録ください。


認知の連鎖は、光の粒が集まって輪郭を作るプロセスに似ていると感じます。
まだ形にならない未来の影を、誰がどんな色で塗り始めるのか
その疑問が心に残りました🐾
メタ認知を高めると生きる気力は減衰していくと思う派です。
集団的無意識に個人で勝てるわけないし、その個人も結局は集団的無意識の一部で、、、とか色々考えてくとげんなりです。。。その辺を抜けてワンネスとかのスピリチュアルな話になってくると、それはそれで嫌いじゃないけど目の前の現実とどんどん乖離していくんで、なんだかなぁ、となってる現在です。
ペイパルマフィアは怖いけどAIは使わざるを得ないんで、今現在は大きな時代の渦の潮目にいるなぁと、なんだかめた風に認知しております。