アンモナイトと暮らす街
まだこの街に住み始めた頃、元夫に「見て、アンモナイトがあるよ」と言われた。
旧市街の広場の地面だった。私はそういうものが好きで、思わず声が出た。ちょうど半分に割れた断面に、アラゴナイトの結晶がきれいに残っている。小躍りするように周りを探し、3つ見つけた。4つ目は少し曖昧で、それが今でも気になっている。通るたびに、つい目がいく。
後日、スペインの友人にその話をした。
「教会の前の広場にもアンモナイトがあるけど見た?」
「アンモナイト?なにそれ」
「でんでん虫みたいな化石。スペインだとアモニタ?」
「そういうの、全然わからない」
アンモナイトは、どこでも通じるものだと思っていたけど、実際はほとんどの人にとってはただの石だった。
いろいろな人に話してみたが、反応は薄くて、その中で一人だけ興味を持ったのが、小学校の教員だった。
彼は、アンモナイト以外にも見られる化石の話をしてくれた。
棒状に見えるものはベレムナイトというイカの祖先。
小さな星や丸の断面は、ウミユリの茎。
意識して歩くと、カテドラルの広場や博物館の中、公園の石の中にそれらが見えてくる。
全てが別世界のように見えた。
子どもと一緒に探しながら歩くと、街は突然、別の顔を見せ始める。
白い大理石のようなもの、結晶がきらめくもの。
空洞が数億年かけて満たされた跡だった。
雨の後は、さらに分かりやすい。
石が濃くなり、アンモナイトの形が浮かび上がる。
中心から外側へ伸びる縫合線まで見えることがある。
ただの道が、天然の博物館に変わる。
アンモナイトは約3億年前に現れ、恐竜の時代に繁栄し、隕石の落下とともに消えた。
その痕跡が、いま自分の足元にある。
普通ならガラスケースの中にあるものが、ここでは毎日踏まれているように、地元の人にとっては日常で、意識しなければ存在しない。
ヨーロッパの地図を見ると、今の陸地の多くはかつて海だった。この街に限らず、同じような痕跡はどこにでもあるのかもしれない。
アンモナイトは3億5000万年もの長い間、地球の海を支配していた。人類の歴史と比べると果てしないくらい長い年月だ。
ただ同じ場所を歩いていても、何も見えない時があるが、気づこうとするとよく見える。
価値は増えるものではなく、見えるようになるものだと思う。

